「おばあちゃんの近くにいたい」一人暮らしのおじいちゃんを支える自費サービスの記録

今回ご紹介するのは、一人暮らしの高齢男性(おじいちゃん)の支援事例です。ご本人は現在、住み慣れた自宅でお一人で暮らしていらっしゃいます。娘さんは遠方にお住まいで、週に1回程度、実家に帰省してこられるという生活スタイルです。介護保険のヘルパーさんも頻繁に入っていますが、家族が遠くにいる一人暮らしの高齢者の生活には、制度の枠だけでは埋めきれない「隙間」がたくさんあります。私は個人事業主として介護タクシーと自費高齢者支援を運営しており、このおじいちゃんの生活を、決められたサービスの枠を超えて柔軟に支えています。この記事では、支援の始まりから現在までの経緯、実際に行っている柔軟な対応、そして介護保険ではカバーできない部分について、具体的にお伝えしていきます。

目次

支援に入った経緯

このお宅との出会いは、開業当初、今から3年ほど前にさかのぼります。きっかけはご家族からの直接依頼でした。おそらくケアマネジャーさんからの紹介で、私の事業のことを知っていただいたのだと思います。

実は当初、支援に入っていたのはご主人お一人ではありませんでした。ご主人と奥様、お二人の支援としてお付き合いが始まったのです。ご夫婦での生活を支える中で、少しずつ信頼関係を築いていきました。

その後、残念ながら奥様は亡くなられました。しかし、そこで支援が終わるわけではありません。奥様を見送られたご主人は、お一人での生活を続けることを選ばれました。現在は、一人暮らしとなったご主人の生活を継続して支援しています。

3年という時間の中で、ご夫婦お二人の暮らしから、ご主人お一人の暮らしへ。生活の形が大きく変わっても、変わらず寄り添い続けられるのは、長いお付き合いの中で積み重ねてきた関係があるからこそだと感じています。遠方に住む娘さんにとっても、「いつも見てくれている人がいる」という安心感は大きいのではないでしょうか。

決められた支援内容(基本サービス)

現在、基本のサービスとして行っているのは、大きく分けて3つです。

1つ目は、移動式スーパーでの買い物支援です。ご自宅の近くまで来てくれる移動式スーパーを利用して、日々の食材や日用品の買い物をお手伝いしています。ご本人が自分の目で商品を見て選べることは、生活の楽しみを保つ上でも大切なことです。

2つ目は、食事の準備です。遠方に住む娘さんが週1回の帰省時に作り置きのおかずを用意してくれるので、それを食べられる状態に準備するお手伝いをしています。娘さんの手料理を毎日の食卓に並べられることは、ご本人にとって家族のつながりを感じられる時間でもあります。

3つ目は、排泄の介助です。一人暮らしの高齢者にとって、排泄まわりのサポートは生活の質と尊厳に直結する重要な支援です。

これらに加えて、介護保険のヘルパーさんも頻繁に入っており、複数の支え手で生活を成り立たせています。しかし、実際に生活を支えてみると、こうした決められた身の回りの手伝いだけでは、生活が回らない場面が多くあります。

実際に柔軟に対応していること

決められたサービスの外側で、生活の中で本当に必要になったことに、その都度対応しています。具体的にご紹介します。

まず、美容室への同行です。髪が伸びてきたなと気づいたら、こちらで美容室の予約を取り、お連れしています。散髪は「なくても命に関わらないこと」かもしれませんが、身だしなみが整うと表情が明るくなりますし、外出そのものが良い気分転換になります。一人では予約の電話も移動も難しいご本人にとって、誰かが段取りから同行まで担うことで初めて実現できることです。

次に、銀行への同行です。銀行の用事ができれば、その都度お連れしています。お金に関わることは本人でなければ手続きできない場面が多く、かといって一人で銀行まで行くのは困難です。こうした「本人が行かなければならない外出」への同行は、生活を維持する上で欠かせません。

また、紙パンツやパッドがなくなれば、家族の代わりに買い物に行きます。このとき、お金を立て替えることもあります。排泄用品は切らすわけにいかない消耗品です。娘さんの帰省を待っていては間に合わないタイミングもあるため、気づいた時点で動くようにしています。

さらに、娘さんが仕事で忙しくて帰れない週には、娘さんの代わりに作り置きのおかずを作りに行きます。娘さんが担っている役割を、必要なときにこちらが引き受けることで、ご本人の食生活が途切れないようにしています。娘さんにとっても「帰れない週があっても大丈夫」という安心につながっているはずです。

そして、転倒や発熱があったときには、夜間に様子を確認しに訪問します。一人暮らしの高齢者にとって、夜間の体調不良は最も不安な時間です。「何かあったら来てくれる人がいる」という存在が近くにいることが、住み慣れた自宅での一人暮らしを続けるための大きな支えになっています。

家族が遠方にいて頻繁に帰れない分、生活の隙間を埋める存在として動く。それが、この支援の本質だと感じています。

印象に残っているエピソード

このご夫婦は、とても仲の良いお二人でした。

奥様がお元気だった当時、ご主人を美容室にお連れした帰りには、必ずケーキ屋さんに立ち寄っていました。「おばあちゃんがここのケーキが大好きだから」と、ご主人が毎回口にされていたのが、今でも強く印象に残っています。実はその当時、奥様はすでに寝たきりの状態でした。それでも、自分の散髪のついでに、奥様の好きなケーキを買って帰る。ご主人の中では、いつも奥様のことが一番だったのだと思います。

奥様が亡くなられる前、ご主人はいつもこう話されていました。「とにかくわしの仕事は、おばあちゃんの後に死ぬことじゃ」と。奥様を最期まで見届けることを、ご自分の役目だと考えていらっしゃったのです。その言葉どおり、ご主人は奥様を見送られました。

そして奥様が亡くなられた今も、ご主人は「できるだけおばあちゃんの近くにいたい」という思いから、住み慣れたご自宅での一人暮らしを続けようと頑張っていらっしゃいます。奥様との思い出が詰まった家で暮らし続けること。それがご主人にとって、奥様のそばにいることなのだと思います。

私たちの支援は、買い物や食事の準備といった目に見えるお手伝いですが、その先にあるのは「この家で暮らし続けたい」というご本人の思いを叶えることです。この思いに寄り添えることが、この仕事の何よりのやりがいだと感じています。

介護保険でできること・できないことの補足

なぜ自費での柔軟な支援が必要になるのか。ここで、介護保険の訪問介護のルールを補足しておきます。

介護保険の訪問介護でできるのは、大きく3つです。1つ目は身体介護で、食事・排泄・入浴などの介助がこれにあたります。2つ目は生活援助で、本人のための掃除・洗濯・調理などの家事支援です。3つ目は通院等乗降介助で、病院への送迎とその前後の乗降介助が対象になります。

一方で、原則対象外となることも多くあります。まず、本人以外の家族のための家事はできません。家族の食事作りや来客対応などがこれにあたります。次に、通院以外の目的での外出への同行も対象外です。買い物、美容室、お墓参り、冠婚葬祭などへの同行は、制度上カバーされません。また、金銭管理や金融機関でのお金の引き出し・立て替えもできません。さらに、大掃除、庭の手入れ、ペットの世話など日常の範囲を超える家事や、ケアプランに位置付けられていない急な体調不良時の夜間訪問などの突発対応も、原則として対象外です。

今回ご紹介した支援内容を振り返ってみてください。美容室への同行、銀行への付き添い、紙パンツの買い物とお金の立て替え、夜間の様子確認。これらはすべて、介護保険の訪問介護では対応できない領域です。

介護保険の訪問介護は「本人の身の回りのこと」に対象が限定されています。だからこそ、保険の枠を超えた自費でのサポートが、一人暮らしの高齢者の生活を支える上で欠かせない存在になっているのです。制度が悪いのではなく、制度には制度の役割があり、その外側を埋める仕組みが必要だということです。

まとめ:生活の隙間を埋める存在として

今回の事例から伝えたいのは、高齢者の暮らしは「決められたサービス」だけでは成り立たないことが多い、という現実です。家族が遠方にいる一人暮らしのおじいちゃんが、「おばあちゃんの近くにいたい」という思いを抱えながら自宅での生活を続けられているのは、制度の隙間を柔軟に埋める支援があるからです。そして、こうした保険外の支援は、地域の医療介護専門職が個人として担える大切な役割でもあります。私自身、開業前に「ねっと」というコミュニティに出会い、先輩たちの経験や開業支援に助けられて今の形にたどり着きました。公的保険の外側で個人が地域で活躍する。そんな選択肢が広がることで、救われる暮らしがきっと増えていくと信じています。

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