介護タクシーを開業しても、最初からすぐに依頼が来るわけではありません。車を用意して、許可を取得して、さあ仕事を始めよう——そこで多くの人が直面するのが、「どうすればケアマネジャーに選んでもらえるか」という問いです。
介護タクシーの利用者の多くは、担当ケアマネジャーを経由して事業者を探します。つまり、ケアマネジャーとの関係構築が、安定した依頼につながる重要な経路のひとつです。
この記事では、個人事業主として介護タクシーと自費高齢者支援を運営している著者・木村が、開業後に意識して取り組んだ「ケアマネに選ばれるための3つのこと」を紹介します。医療従事者として培った視点も交えながら、実際の行動ベースで整理していきます。
①「何ができて、何ができないか」を明文化して伝える

ケアマネジャーが事業者を選ぶ際に重視することのひとつは、「この事業者に頼んで問題が起きないか」という安心感です。そのためには、自分のサービス内容を曖昧なまま伝えるのではなく、できることとできないことを明確にした資料を用意することが欠かせません。
よくあるのが、「うちは何でも対応します」というアピール方法です。一見、頼りになるように見えますが、ケアマネジャーの立場からすると、「本当に大丈夫か?」という不安を生むこともあります。むしろ、「ストレッチャー対応は可能ですが、酸素吸入中の方への対応はお断りしています」「院内への付き添いは可能ですが、診察室への同席は医師の判断に従います」というように、具体的な線引きを示すほうが信頼されやすい傾向があります。
パンフレットやチラシに「対応可能な状態」「お断りしているケース」を明記しておくと、ケアマネジャーも利用者への説明がしやすくなります。「わかりやすい事業者」という印象が、継続的な依頼につながります。
また、医療従事者として働いてきた経験がある場合、その経歴は大きな強みになります。「理学療法士として〇年間、在宅リハビリに関わってきた」「看護師として退院支援に携わっていた」という背景は、ケアマネジャーにとって「この人はご利用者の状態を見ながら動いてくれる」という安心材料になります。肩書きをアピールするのではなく、「どう役立つか」に結びつけて伝えることがポイントです。
②「報告・連絡・相談」を丁寧にする

介護タクシーの送迎後、ケアマネジャーに何も連絡しない事業者は少なくありません。しかし、ケアマネジャーの立場から見ると、「利用者の状態変化があったときに教えてほしい」というニーズは非常に強くあります。
送迎中にご利用者の様子に気になる点があった場合、たとえばいつもより会話が少ない、歩行が不安定に見えたといった変化を、簡潔にメッセージや電話で伝えるだけで、ケアマネジャーからの信頼度は大きく変わります。これは、医療職としての「観察眼」が活かせる場面でもあります。
報告のタイミングや方法について、最初に「気になることがあればご連絡してもよいですか?」と確認しておくと、双方にとって動きやすくなります。連絡の頻度や手段(電話・メール・FAXなど)の好みを把握しておくことも、関係を長続きさせるうえで大切です。
小さな積み重ねが「この事業者なら安心して紹介できる」という評価につながります。逆に言えば、1回のトラブル対応や事後報告の丁寧さが、長期的な信頼を生むこともあります。
③「顔が見える関係」を作るために動く

ケアマネジャーとの関係は、1枚のパンフレットを届けただけでは構築できません。定期的に顔を出す、サービス担当者会議(※利用者のケアプランに関わる専門職が集まる会議)に積極的に参加するなど、「顔を知ってもらう機会」を意識的に作ることが必要です。
多くの介護タクシー事業者が苦手とするのが、この「営業」の部分です。
私自身も開業当初、居宅介護事業所への挨拶周りをするときは緊張し、すごく気が重かったのをよく覚えています。
医療従事者出身の方に多いのが、「サービスの質を上げれば自然に選ばれるはず」という考え方です。もちろんそれは正しいのですが、知られていなければ選ばれることもありません。
営業というと構えてしまいがちですが、「こんなサービスをやっています」「こういうケースが得意です」という情報を、顔を合わせた際に自然に伝える——それだけでも十分なスタートになります。
地域によっては、居宅介護支援事業所(ケアマネジャーが所属する事業所)が定期的に情報交換の場を設けていることもあります。そういった場に参加することで、同じ地域で活動する他の専門職とのつながりも生まれ、結果的に利用者の紹介ルートが広がることもあります。
電話での挨拶やSNS運用だけでは乗り越えられない、泥臭く足を使って動くことが”知ってもらうこと”への一番の近道かもしれません。
開業前から「選ばれる準備」を始められる
ここまで紹介した3つのことは、開業後すぐに動けるよう、開業前から準備しておくのが理想です。パンフレットやチラシをどう作るか、どんな文言で自分のサービスを伝えるか——こうした素材の準備は、意外と時間がかかります。
また、ケアマネジャーとの関係を築くためには、まず自分が「信頼できる事業者」として地域に存在していること、つまりきちんと許可を取得し、書類がそろった状態で開業していることが前提になります。
許可申請の書類作成に不安を感じている方には、現在開発中のWebアプリ「カイタク(https://luxury-meerkat-a0e444.netlify.app/)」が参考になるかもしれません。介護タクシー(福祉車両限定の旅客自動車運送事業)の開業を目指す方向けに、必要書類リストの自動生成やAIによる書類添削・不備チェックができるツールです。開発者自身が実際に申請を経験した理学療法士であり、現場感覚をもとに設計されています。正式リリースはまだですが、ベータ版を希望者に配布中です。
書類の準備に時間をとられず、「ケアマネに選ばれるための動き」に早めにエネルギーを向けられるよう、使えるツールは積極的に活用していくことが、個人事業主としての現実的な戦略だと考えています。
一人で抱え込まずに、仲間と進む
個人で介護タクシーを開業すると、営業・書類管理・サービス提供・経理まで、すべてを一人でこなすことになります。ケアマネジャーとの関係構築も、最初はうまくいかないことがあります。そのときに「どうすればよかったのか」を一人で考え続けるのは、精神的にも時間的にも消耗します。
著者・木村が開業前に入会した「ねっと(https://netto.life/nettowork)」は、医療介護専門職が個人で在宅支援・介護タクシー事業の起業を目指すためのオンラインコミュニティです。2021年秋にスタートし、高齢化率日本トップクラスの周防大島で生まれた「暮らし支援サービスねっと」の起業支援の考え方を軸に運営されています。
契約書(かなめ法律事務所監修・法律対応済み)やパンフレット・チラシといった広告素材の共有、行政書士に頼らずに開業するためのサポート、経理や確定申告の知識習得など、個人起業家が実際に必要とする情報が集まっています。また、批判なく励まし合えるクローズドなコミュニティの環境が、孤独になりがちな個人起業家の心理的な支えにもなります。
「ケアマネに選ばれる事業者になる」という目標は、一夜にして達成できるものではありません。正しい情報をもとに、着実に準備を積み上げていくこと——その過程を一緒に歩める仲間がいるかどうかが、長く続けられるかどうかの分岐点になることも少なくありません。
開業を考え始めた段階で、こうしたコミュニティや支援ツールの存在を知っておくことが、スタートをよりスムーズにする第一歩になると感じています。
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