「AI活用」と聞くと、大企業や専門のエンジニアだけのものと思われがちですが、実は個人で事業を営む介護タクシーの現場でも、AIは十分に活躍しています。私は理学療法士として病院勤務を経た後、2023年に個人事業主として介護タクシーと自費高齢者支援を運営しています。一人で運営していると、送迎そのものよりも日報の作成、運賃計算、問い合わせ対応といった事務作業に追われる時間が想像以上に多いのが実情です。そこで私は、AIを活用して自分の業務を助けるツールを自作するようになりました。この記事では、私自身が実際に取り組んでいるAI活用の事例と、介護タクシー・福祉タクシー業界全体で進んでいるAI活用の動きをあわせてご紹介します。
AIを活用し始めた経緯
私がAI活用に本格的に取り組むようになった原点は、自分自身の開業経験にあります。介護タクシー(福祉車両限定の旅客自動車運送事業)を開業する際には、運輸局への申請をはじめ、非常に多くの書類を用意しなければなりません。私も開業当時、必要書類の多さと手続きの複雑さに大変苦労しました。行政の様式は独特で、どの書類が必要なのか、どこに不備があるのかを自分で確認するのはとても骨の折れる作業です。さらに開業後も、事務作業の負担は続きます。個人事業主の場合、ドライバー業務も事務作業も経理もすべて自分一人でこなさなければなりません。日々の業務報告や運賃計算を手作業で行っていると、時間がかかるうえに、計算ミスや記載漏れといったヒューマンエラーも起こりがちです。利用者さんへの対応に集中したいのに、机の前に座る時間ばかりが増えていく。この状況をなんとかしたいと考えたとき、目をつけたのがAIでした。近年は生成AIの普及によって、専門的なプログラミング知識がなくても、AIの力を借りて自分でツールを作れる環境が整ってきています。「自分の困りごとは、自分で解決できるかもしれない」——そう考えて、少しずつAIを使ったツール開発を始めました。
自作AIツールその1:日報・運賃計算の電卓アプリ
最初に取り組んだのが、日報作成と運賃計算ができる電卓アプリの自作です。介護タクシーの運賃は、移動距離や所要時間などをもとに計算する必要があり、案件ごとに条件が異なるため、手計算では手間もミスも発生しやすい業務です。また、日々の業務報告も事業運営には欠かせない記録であり、毎日コツコツと積み重ねなければなりません。そこでAIを使って、移動距離や時間を入力するだけで運賃が自動計算され、あわせて日報も作成できるアプリを自分で開発しました。以前は運行が終わってから電卓を叩き、書類に転記して……という作業に時間を取られていましたが、今では必要な数字を入力するだけで完結します。結果として、事務作業にかかる時間を大幅に減らすことができました。空いた時間は利用者さんへの対応や事業の改善に充てられるようになり、「事務作業の自動化」が個人事業の運営にどれほど効くかを実感した最初の成功体験になりました。
自作AIツールその2・その3:AI見積もりツールと開業支援アプリ「カイタク」

そこでAIを使った見積もりツールを開発し、自分のホームページ上に埋め込めるようにしました(ツールは2026年7月11日現在まだ未公開)。利用者さんが条件を入力するだけで、おおよその料金がその場で分かる仕組みです。
そして三つ目が、AIを活用した介護タクシー開業支援アプリ「カイタク」の個人開発です。前述の通り、私自身が開業したときに必要書類の多さや手続きの複雑さで大変苦労しました。その経験から、「当時の自分が欲しかったツール」を形にしようと開発を始めたのがカイタクです。主な機能は、必要書類リストの自動生成、AIによる書類添削・不備チェック、修正ポイントのわかりやすい解説で、開業後のリマインド機能も近日公開予定です。実際に申請を経験した当事者だからこそ分かる「つまずきポイント」を反映させています。カイタクは現在開発中で正式リリース前の段階ですが、ベータ版を希望者に配布しています。
業界全体で進むAI活用の最新事例
AI活用の波は、私のような個人事業者だけでなく、介護タクシー・福祉タクシー業界全体にも広がっています。調べてみると、興味深い事例がいくつも見つかりました。
まず、配車サービス「よぶぞー」です。Webサイトから配車予約ができるサービスで、利用者が予約すると事業者側のアプリに依頼が届く仕組みになっています。これまで電話オペレーターが行っていた予約対応業務を自動化しており、将来的には顔認証機能「かおdeよぶぞー」も予定されているとのことです。
次に、「介護タクシー予約センターかながわ」による動態管理を使った配車最適化です。車両の位置情報や状態をリアルタイムで記録・管理し、現在地と配車スケジュールから最適な車両を自動で選んで向かわせる仕組みが構築されています。
また、パナソニックの送迎支援システム「DRIVEBOSS」も注目です。利用者情報や交通状況などのデータをもとに、AIが最適な送迎ルート・時間を自動計算するシステムで、導入した介護施設では送迎時間が15%短縮された事例もあるそうです。
さらに自治体との連携も始まっています。秋田市の介護タクシー事業者「VISTA」は、2026年7月からAIやオンラインシステムを使った配車サービスの実証実験を市と連携して実施します。通院や入退院時の移動をスムーズにすることが狙いで、行政を巻き込んだ取り組みとして今後の展開が楽しみです。
個人事業者がAIを取り入れる意義と押さえておきたいポイント
ここまでの事例を踏まえて、個人や小規模の介護タクシー事業者がAIを取り入れる意義を整理しておきます。
まず大きいのは、「現場の課題を一番よく知っているのは現場の人間である」という点です。日報の手間、運賃計算の煩雑さ、料金に関する問い合わせの多さ——こうした困りごとは、実際に日々の業務を回している事業者自身が最も肌で感じています。従来であれば、システム開発は外部の業者に依頼するしかなく、コスト面から個人事業者には手が届きませんでした。しかし今は、生成AIの普及によって、専門的なプログラミング知識がなくてもAIの力を借りながらツールを自作できる環境が整っています。「困っている本人が、自分の手で解決策を作れる」——これは非常に大きな変化です。
また、AI活用は利用者さんへのサービス向上にも直結します。私の見積もりツールのように、利用者側が気軽に情報へアクセスできるようになれば、問い合わせのハードルが下がり、必要な人に必要なサービスが届きやすくなります。業界全体の事例が示すように、配車の自動化や送迎ルートの最適化は、待ち時間の短縮や移動のスムーズさという形で利用者さんに還元されます。
一方で、押さえておきたいポイントもあります。介護タクシーの業務では利用者さんの個人情報を扱う場面が多いため、AIツールに情報を入力する際の取り扱いには十分な配慮が必要です。また、AIの出力が常に正しいとは限らないため、運賃計算や書類作成の結果は最終的に人の目で確認する姿勢も欠かせません。AIはあくまで業務を助ける道具であり、それを使いこなすのは事業者自身です。「小さく作って、実際に使いながら改善する」——このサイクルを回すことが、個人事業者のAI活用を成功させるコツだと感じています。
まとめ:AI活用は特別な人だけのものではない
個人でもAIを使えば、日報・運賃計算のアプリから、見積もり対応ツール、さらには開業支援アプリまで自作できる時代になりました。そして業界全体でも、配車の自動化、送迎ルートの最適化、自治体との連携による実証実験と、AI活用の動きは着実に広がっています。大切なのは、AI活用は特別な人だけのものではなく、現場の事業者自身が業務改善のために取り入れられるということです。私が開発中の「カイタク」も、まさにその実践のひとつです。介護タクシーの開業を目指す方に向けて、必要書類リストの自動生成やAIによる書類添削などの機能を備えており、現在ベータ版を希望者に配布しています。開業準備でつまずいている方の力になれれば嬉しく思います。
みなさんの活用事例があれば是非コメントで教えてください!

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