「いつか自分のペースで、利用者さんに寄り添った仕事がしたい」
そう思いながら、病院や施設での勤務を続けている医療従事者の方は少なくないと思います。
理学療法士として10年以上勤めてきた私も、かつてはそのひとりでした。回復期病棟や訪問リハビリで仕事をしながら、「もっと患者さんのためにできることはあるのではないか」「退院後の患者さんがどう生活しているか、もっと深いところで関わり続けたい」という思いがずっとありました。
そのひとつの答えが、介護タクシー+自費暮らし支援+自費リハビリの開業でした。
この記事では、現在の事業(主に介護タクシー)の開業までの具体的な流れを、私自身の経験をもとにお伝えします。「難しそう」「何から始めればいいかわからない」という方にこそ読んでいただきたい内容です。
そもそも「介護タクシー」ってどんな仕事?
まず、介護タクシーとは何かを整理しておきましょう。
介護タクシーとは、身体に障がいがある方や要介護状態の方など、一般のタクシーでの移動が難しい方を対象に、乗降の介助を含めて送迎を行うサービスです。車いすやストレッチャー(寝たまま移動できる担架型ベッド)に対応した車両を使い、病院への通院、施設への入退所、冠婚葬祭への参列など、さまざまな場面で利用されます。
私が開業当初に担当したのは、月1回の通院送迎+病院受診付き添いの依頼でした。90代の女性で、ご自宅から近隣の病院までの片道15分ほどのルート。「バスには乗れないし、家族も遠方に住んでいて仕事で来られない」というご家庭。
実はこのおばあちゃん、大の病院嫌い。毎回病院受診前になるといきたくない気持ちと不安から家族さんに何度も電話をかけたり、病院に行かないと言い出したり…。
でも私と病院に行くようになってからは「一緒に来てくれる人がいると安心する」と言ってくださるようになり、病院の帰りにはカフェに寄って帰るようにしてからは「次の病院の日はいつなの?待ち遠しい!」と次回の予約を心待ちにしていただけるまでになりました。
単なる「移動の手段」ではなく、その人の人生を彩るインフラなんだと、その仕事を通じて実感しました。
自費リハビリとの組み合わせで広がる可能性
介護タクシーと並行して、私は自費での暮らし支援やリハビリ(※保険外でリハビリを提供するサービス)も提供しています。
ある日、脳梗塞(※脳の血管が詰まって起こる病気)の後遺症で右半身に麻痺が残る60代の男性を、定期的に送迎するようになりました。最初は送迎のみの関わりでしたが、「もう少し歩けるようになりたい」というご希望を聞き、入所施設でのリハビリも並行して開始しました。
施設入所の方は介護保険や医療保険のリハビリが利用できないケースがあり、個別のリハビリをしっかりと時間をとって行えない方が多くいらっしゃいます。自費のリハビリであれば、そのような制度に囚われることなく柔軟に介入することができます。
リハビリをするようになってからしばらくすると「旅行に行きたい」と希望があり、ご家族や友人と一緒に沖縄旅行へ同行することになりました。
「旅行なんて諦めていたけど、あなたがいてくれたおかげで実現できた。本当にありがとう」とおっしゃてくれたことは、今でも忘れられません。
これが介護タクシーの仕事です。移動の先に、その人の「生きたい場所」があるのです。
介護タクシー開業に必要な許可と資格
さて、ここからは具体的な開業の流れについて説明します。
介護タクシーを開業するには、運輸関係の許可が必要になります。
一般乗用旅客自動車運送事業(福祉輸送限定)の許可
いわゆる「福祉タクシー許可」です。国土交通省の管轄で、運輸支局(※各都道府県に設置された国土交通省の出先機関)に申請します。
主な要件は以下の通りです。
- 二種免許(※旅客を有償で運ぶために必要な運転免許)の取得
- 福祉車両(スロープ付き、リフト付きなど)の確保
- 営業区域の設定
- 損害賠償保険への加入
二種免許を持っていない場合は、自動車教習所で取得できます。費用は約20万円前後、期間は約2〜3週間が目安です。私は前職の退職前に教習所に通い始め、週1〜2回の教習だったので2ヶ月ほどかかりました。
それと11月〜3月は学生の利用が多くなる時期で、教習所によっては一般の入校を11月あたりで締め切る地域もあるようなので要確認です!
開業の流れ:ステップごとに整理する
実際の開業は、おおむね以下のような流れになります。
STEP 1|情報収集・事業計画の策定(目安:1か月)
まず、自分がどんなサービスを提供したいかを明確にします。「個人事業主としてやっていくか、法人でスタートするのか」「車両は何台からスタートするか」「対象エリアはどこか」など、方針を固めることが先決です。
私はこの段階で、すでに開業している先輩に話を聞いたり、コミュニティに参加したりしました。机上の情報だけでなく、実際に動いている人の声を集めることが、現実的な計画づくりにつながります。
STEP 2|資格取得・法人設立(目安:1〜3か月)
二種免許の取得と並行して、個人事業主の場合は税務署に開業届の提出、法人の場合は法人設立の手続きを進めます。一人で独立起業する場合は個人事業主として開業するのが手軽でおすすめですが、法人化することで社会的信頼度が高まり、契約しやすくなるケースもあります。
STEP 3|運輸局への申請(目安:2〜4か月)
必要書類を揃えて運輸支局に申請します。審査にはかなりの時間(通常3〜4ヶ月程度)がかかるため、申請のタイミングと開業希望時期を逆算して動くことが重要です。書類の不備があると補正通知がきます。運輸局担当者とやりとりしながら書類を完成させていきます。
申請書類の準備は行政書士(※官公庁への書類作成・申請を代行する専門家)に依頼するケースも多いですが私が所属しているコミュニティでは開業支援も行っており、実際に開業して営業している先輩たちからのお話も聞きながら進めることができます。
STEP 4|車両・設備の準備(STEP 3と並行)
福祉車両の購入またはリースの手続きを進めます。新車の場合は納車まで数か月かかることもあるため、早めの手配が必要です。初期費用を抑えたい場合は、中古車の購入(走行距離や車の大きさにもよりますが、軽自動車の場合は100万円前後で購入できます)やリース(※月々の料金を払って車を借りる方式)を選ぶ事業者も増えています。
ちなみに私は所属しているコミュニティを運営している法人とリース契約を結んでいます。初期費用を抑えたいならこれが一番です。
STEP 5|開業・集客
許可が下りたら、いよいよ開業です。ただ、ここで多くの人が直面するのが「利用者をどうやって集めるか」という問題です。
私も開業直後はなかなか依頼が来ず、地域のケアマネジャー(※介護サービスの計画を立てる専門職)への挨拶回りや、SNSでの発信を続けました。最初の3か月は本当に不安でした。「本当にこれでよかったのか」と何度も考えました。
開業前に抱えていた「3つの不安」
医療の現場から飛び出して開業するとき、私には大きく3つの不安がありました。
①収入が安定するか不安
病院勤務と違い、毎月決まった給料が入ってくるわけではありません。最初のうちは売上が読めず、生活費の計算を何度もやり直しました。
②孤独になるのが不安
職場の同僚や上司がいなくなり、困ったときに相談できる人がいない環境は、思った以上に精神的な負担でした。
③業界のルールや制度がわからない
医療職として制度には詳しいつもりでしたが、運輸関係の法律や自費サービスの料金設定など、知らないことだらけでした。
この3つの不安は、おそらく開業を考えている多くの方が共通して感じることだと思います。
「ひとりでやらなくていい」という気づき
開業前に色々と調べていたところ、あるつながりから「介護タクシー事業者のネットワーク」の存在を知りました。
開業当初の私が一番欲しかったのは、「同じ道を歩いている人の声」でした。制度の正確な情報も大事ですが、それ以上に「あの不安はこうやって乗り越えた」という実体験のほうが、よっぽど力になります。
介護タクシーの世界には、医療職出身のオーナーが増えています。理学療法士、看護師、介護福祉士…それぞれの専門性を活かしながら、地域で必要とされる仕事をしている人たちがたくさんいます。
もしあなたが「開業に興味はあるけど、ひとりでは不安」と感じているなら、まずはそういったネットワークや情報発信に触れてみることをおすすめします。
開業は決してゴールではなく、スタートです。でも、正しい情報と仲間がいれば、そのスタートラインに立つことは、思っているよりずっと現実的です。
あなたの「関わり続けたい」という思いは、きっと誰かの生活を支える力になります。
次回
次回は私が所属しているコミュニティについて、少し詳しくお話ができたらと思います。
お楽しみに!

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