車椅子で段差40cmは降ろせる?介護タクシー直伝の介助のコツ

「玄関の段差が高いから、車椅子での外出は無理だと思っている」
「スロープがない場所には連れて行けないのでは?」
「介助で段差を降ろすのは危なそうで怖い」

車椅子を利用されているご本人やご家族、そしてケアマネジャー(介護支援専門員)さんからも、こうした声をよく耳にします。実際、外出をあきらめる理由として「玄関や道路の段差」を挙げる方はとても多いのです。

しかし、結論からお伝えすると、車椅子は40cmほどの段差でも、正しい介助方法を知っていれば安全に降りることができます。これは特別な機材がなくても、介助技術だけで対応できるケースが現場では少なくありません。

この記事では、理学療法士として病院で勤務したのち、現在は個人事業主として介護タクシーと自費の高齢者支援を運営している筆者が、車椅子での段差昇降の基本手順と注意点、そして現場でよくある誤解について解説します。

目次

車椅子で40cmの段差は本当に降りられる?

車椅子を介助するスタッフの様子

「40cm」と聞くと、かなり高く感じるかもしれません。一般的な住宅の上がり框(あがりかまち:玄関の土間と床の境目にある段差)は10〜30cm程度、階段の1段は20cm前後ですから、その約2段分に相当します。

実際、訪問介護の現場では、玄関框のような高低差の大きい場所はヘルパー二人での介助が基本とされることが多いです。一人で無理に行うと、車椅子ごと転倒するリスクがあるためです。

一方で、介護タクシーの事業者は、日常的にさまざまな段差のあるお宅へお迎えに伺うため、一人でも安全に段差を昇降する技術を訓練しています。ポイントは「持ち上げる」のではなく、後輪を段差の縁に当てて、転がしながらゆっくり降ろすという考え方です。車椅子の大きな後輪は、段差の角に沿って回転させることで、衝撃を最小限にしながら降りることができる構造になっています。

つまり、「40cmの段差=車椅子では絶対に無理」ではなく、「介助者の技術と正しい手順があれば対応できる場面が多い」というのが現場の実感です。

車椅子で段差を降りるときの正しい手順は?

段差スロープを利用する車椅子

段差の降り方については、東京都や神奈川県などの公的機関も介助方法を公開しています。基本の手順は次のとおりです。

1. 段差に対して車椅子を後ろ向きにする
前向きのまま降りると、利用者さんが前方に投げ出される危険があります。段差を降りる際は必ず後ろ向きが基本です。

2. 声かけをする
「今から段差を降りますよ」「少し傾きますね」と事前に伝えるだけで、利用者さんの不安は大きく減ります。急に体が傾くと、それだけで恐怖を感じたり、体をこわばらせてバランスを崩したりする原因になります。

3. 後輪からゆっくり降ろす
介助者が先に段の下に降り、後輪を段差の縁に当てながら、静かに転がすように降ろします。ここで勢いよく落とすと、利用者さんの腰や背中に強い衝撃が加わるため、あくまで「ゆっくり」が鉄則です。

4. 前輪(キャスター)を上げたまま後ろに引き、静かに下ろす
後輪が地面に着いたら、前輪を浮かせた状態のまま後方に引き、段差から十分離れたところで前輪をそっと着地させます。

この「後ろ向き・後輪から・ゆっくり」という3点を守るだけで、段差昇降の安全性は大きく変わります。

キャスター上げ(前輪上げ)はなぜ必要?失敗するとどうなる?

段差の昇降で欠かせないのが「キャスター上げ」と呼ばれる技術です。車椅子の後方下部にあるティッピングレバー(写真で介助車が足で踏んでいる部分、ステッピングバーとも呼ばれる介助者が足で踏むためのバー)を踏み込みながらハンドルを手前に引くと、前輪が浮き上がります。

キャスター上げができると、小さな段差の乗り越えはもちろん、段差を降りる際にも前輪を浮かせたまま安定してコントロールできるようになります。

ただし、注意点があります。前輪を上げすぎると、車椅子ごと後方に転倒する危険があります。車椅子には後方転倒しやすい角度があり、勢いよくレバーを踏み込んだり、必要以上に傾けたりするのは厳禁です。前輪が地面から数cm浮く程度、車椅子がわずかに傾く程度で十分です。

また、キャスター上げをしている間、利用者さんは体が後ろに傾いた状態になります。声かけなしに行うと「倒れる!」と感じて手すりや介助者に強くつかまってしまうことがあるため、必ず一声かけてから行いましょう。

「スロープがないと外出できない」は誤解?現場でよくある思い込み

ここで、筆者が介護タクシーの現場で実際に感じていることをお伝えします。

介護タクシーでお迎えに伺うと、車椅子のまま40cmほどの段差でも介助で安全に降りられることを、ご家族もケアマネさんも意外とご存じないことが多いのです。「うちは段差があるからスロープを用意しないと」「スロープがないから外出は難しい」と思い込まれているケースは珍しくありません。しかし実際には、スロープを用意しなくても介助技術で対応できる場面が、現場では結構あります。

もちろん、スロープや段差解消機といった福祉用具が有効な場面はたくさんありますし、ご本人が自走(自分で車椅子をこいで移動すること)される場合や、介助者が高齢で力に不安がある場合には、用具の導入が第一選択になります。

ただ、「段差がある=外出できない」とあきらめてしまう前に、介助方法によって解決できる可能性があることを、ぜひ知っておいていただきたいのです。通院や外出の相談をされる際、ケアマネジャーさんや介護タクシー事業者に「玄関に◯cmくらいの段差があるのですが、対応できますか?」と一度聞いてみてください。それだけで選択肢がぐっと広がることがあります。

段差の解消に介護保険は使える?福祉用具と住宅改修の選択肢

介助技術で対応できる場面が多いとはいえ、毎日の生活で頻繁に段差を昇降するのであれば、福祉用具や住宅改修を検討する価値は十分にあります。公益財団法人長寿科学振興財団の「健康長寿ネット」などで紹介されている主な選択肢は次のとおりです。

・スロープ(可搬型・据置型)
介護保険の福祉用具貸与(レンタル)の対象で、要支援1から利用できます。持ち運びできるタイプなら、玄関だけでなく外出先でも使えます。

・段差解消機
数cmから2m程度までの段差に対応できる昇降機です。玄関の上がり框が高いお宅や、玄関前に階段があるお宅で活用されています。

・移動用リフト
介護保険でのレンタルは原則として要介護2以上が対象です。

・住宅改修
手すりの設置や段差の解消などは、介護保険の住宅改修費支給(原則20万円まで、自己負担1〜3割)の対象になります。実際に、40cmの上がり框を改修して車椅子での自立した外出を実現した事例も、福祉用具メーカーから公開されています。

どの選択肢が適しているかは、段差の高さ、利用頻度、介助者の状況、ご本人の身体機能によって変わります。担当のケアマネジャーさんや福祉用具専門相談員、リハビリ専門職(理学療法士・作業療法士)に相談しながら決めるのがおすすめです。

ご家族が介助するときに気をつけたいポイント

最後に、ご家族が段差の介助を行う場合の注意点を整理します。

・無理はしない
40cmの段差を一人で降ろす技術は、訓練と経験があって初めて安全に行えるものです。介助に慣れていないご家族が見よう見まねで行うのは危険です。高い段差は二人で介助する、あるいはプロに任せるという判断も大切です。

・ブレーキとフットサポートの確認を習慣にする
介助の前後には必ずブレーキをかけ、足がフットサポート(足乗せ台)にきちんと乗っているか確認しましょう。段差昇降中に足が落ちて巻き込まれる事故は、実際に起こりやすいトラブルの一つです。

・声かけを省略しない
慣れてくると声かけを省きがちですが、体が傾く動作は利用者さんにとって毎回怖いものです。「降りますよ」の一言が、安心と安全の両方につながります。

・迷ったら専門職に相談する
ご自宅の段差でどんな介助が適切か迷ったら、担当のケアマネジャーさんや訪問リハビリのスタッフに実際の場所を見てもらうのが確実です。段差の形状や周囲のスペースによって、最適な方法は変わります。

【特殊パターン】前向きで階段などを降りる場合は?

ここまで「段差は後ろ向きで降りるのが基本」とお伝えしてきました。これは今も変わらない大原則です。ただし現場では、後ろ向きではどうしても対応できず、他に代替手段が本当にない場合に限って、前向きのまま降りるという特殊なパターンをとることがあります。

たとえば、階段の構造や周囲のスペースの都合で後ろ向きに入れない、スロープも昇降機も使えない、といったごく限られた状況です。あくまで例外的な最終手段であり、日常的に選ぶ方法ではありません。

前向きで降ろす場合は、次のような点を十分に見極めたうえで判断します。

・利用者さんの体重
前向きでは、万一前方に傾いたときに利用者さんが滑り出てしまうリスクが大きくなります。体重が重い方ほど支えきれなくなる危険が高まるため、より慎重な判断が求められます。

・体幹の効き具合(姿勢を保つ力)
ご自身で上体を起こして姿勢を保てるか(体幹の筋肉がどの程度働くか)によって、前方への崩れやすさは大きく変わります。体を支えられない方の場合、前向きでの降下は特に危険です。

・可能な限り二人以上で介助する
前向きパターンは一人で行うものではありません。車椅子を支える人と利用者さんの体を前方から支える人というように、できる限り二人以上で役割を分けて行うことを前提とします。

これらはいずれも、訓練を受けた介助者が現場の状況を総合的に見て判断するものです。ご家族が見よう見まねで前向きに降ろすことは絶対に避けてください。「後ろ向きでは難しそうだ」と感じた時点で無理をせず、介護タクシー事業者やリハビリ専門職などのプロに相談するのが安全です。

まとめ|段差があっても外出をあきらめないでください

車椅子での段差昇降は、「後ろ向き・後輪から・ゆっくり」という基本を押さえれば、40〜50cmほどの高さでも介助で安全に降りられる場面が多くあります。一方で、前輪の上げすぎによる後方転倒など、知らないと危険なポイントもあるため、高い段差は無理をせず、技術を持ったプロや福祉用具の力を借りることが大切です。

「段差があるから」という理由だけで、通院や外出をあきらめる必要はありません。介助技術、福祉用具、住宅改修と選択肢はいくつもあります。まずは身近な専門職に相談してみてください。

筆者は山口県岩国市で介護タクシー「ねっと岩国」を運営しており、段差のあるお宅への送迎にも日常的に対応しています。「うちの玄関でも大丈夫?」といったご相談だけでもお気軽にお声がけください。段差を理由に外出をあきらめる方が、一人でも減ることを願っています。

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